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名古屋高等裁判所 昭和59年(う)307号 判決 1984年11月27日

本店所在地

名古屋市北区志賀南通二丁目二四番地

株式会社ユニオン商会

右代表者代表取締役

佐藤敬一

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五九年八月一五日名古屋地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官鈴木芳一出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人竹下重人名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。

所論にかんがみ、記録を調査して検討するに、証拠に現れた諸般の情状、とくに、本件は、陶磁器・雑貨等の輸出入及び国内販売を営む被告人株式会社ユニオン商会が、装飾用陶器等の輸出によって巨額の収益を挙げたにもかかわらず、将来の不測の事態に備えて同会社の資産を隠匿蓄積しようと企て、所轄の税務署長に対しその内容が虚偽過少の法人税確定申告書を提出して、昭和五五年四月一日から昭和五八年三月三一日までの三年間にわたる各事業年度において総額一億三五一四万三一〇〇円の法人税をほ脱したという法人税法違反罪の案件であって、そのほ脱税額及びほ脱税率がいずれも高額高率であるのに加え、犯行の手段方法が売上げの一部除外等相当巧妙悪質であると認められることなどを総合考察すると、原判決の量刑はこれを相当として是認するほかなく、所論のうち、被告人がその後修正申告をして本税及び重加算税を完納していることなど、証拠上肯認し得る被告人株式会社ユニオン商会に有利な一切の情状を十分に斟酌しても、右量刑が所論のごとく重過ぎて不当なものであるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、本件控訴は、その理由がないから、刑事訴訟法三九六条に則り、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉田寛 土川孝二 虎井寧夫)

昭和五九年(う)第三〇七号

○ 控訴趣意書

被告人 株式会社ユニオン商会

右の者に対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣旨は左記のとおりである。

昭和五九年一〇月一八日

右弁護人 竹下重人

名古屋高等裁判所刑事第二部 御中

被告人株式会社ユニオン商会(以下被告会社という)に対し罰金四〇〇〇万円を科した原判決の量刑は不当に重いものである。

一、原判決認定の脱税所得金額の中には、被告会社に対する青色申告の承認が、公訴に係る各事業年度の法定申告期限後に取消されたことによる増加額が相当多額に含まれている。

即ち昭和五六年三月三一日決算期における欠損金の当期控除額五九三万九、七九三円、

昭和五七年三月三一日決算期の市場開拓準備金一、四四九万円

昭和五八年三月三一日決算期の市場開拓準備金一、〇〇一万一、三五二円

がそれに該当する。

これらの青色申告承認取消に因る増加所得をも脱税所得を構成することについては既に判例となっているとみられるので、やむを得ないところではあるが、この増加所得部分はいわば自動的に行われたものであって、犯罪行為としての所得秘匿行為そのものではない(高知地方裁判所昭和五一年(わ)第二八〇号、昭和五二年一〇月三一日判決、税務訴訟資料一〇〇号一四四四頁参照)ことに照らせば罰金刑の量定に際してはこの部分を脱税所得から除外する程度の考慮が加えられてもよいと考える。

二、被告会社の本件脱税は、アメリカ合衆国の特定の商社が取扱の通信販売用の花瓶が極めて好評であったという特殊な事情によって急激に増加した取引量を維持し、継続するために、中間業者に対するコミッション、製造および発送について無理をさせてメーカー、荷扱業者に対するリベート等が多額に上り、税法上損金に算入することを許容される交際費の限度を超えるに至ったので、売上の一部を除外する等の手段によってその資金を作ったものである。その犯行の態様は極めて単純なものであって悪質な操作は認められない。

被告会社代表者は捜査中を通じてコミッションの支払先の氏名を秘匿したがこの点も被告会社のように個人事業に等しい小企業は特殊な人間関係に支えられてはじめて事業経営を継続することができるのであるという窮状を酌量していただきたい。

三、被告会社の脱税率は八五・七%という高率ではあったが被告会社代表者は前記コミッションの支払先に関する点を除いては、終始査察調査に協力的であり、調査の進行に伴って納付すべき税額の概数がわかった段階で被告会社は一億円の予納をし、税額確定後は重加算税を含めて法人税を完納している。

重加算税の額は合計三、八四九万四、〇〇〇円に達している。重加算税は行政上の制裁であって刑罰ではないとはいうものの脱税という反社会的行為に対する社会的制裁という点では刑罰と同種の機能を果すものである。従って多額の重加算税を納付したということは、罰金刑の量定に際して十分に酌量されてしかるべきである。

四、被告会社は資本金一〇〇万円会社の業務に従事する者は三名だけの小企業である。公訴事業年度に所有していた現金、預金、有価証券はその大部分を納税のために使用したので、被告会社の財産状態は悪化していて多額の罰金の負担には耐え得ない。

五、以上の諸事情を総合して酌量されるならば、原判決の刑は不当に重いものといわなければならない。

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